ペンネーム:菜緒
プロフィール:51歳主婦。夫と娘の3人暮らし。実家の母の介護を手伝っています。
前回に引き続き、認知症の母(当時75歳)を私の家で1週間ほど預かった時の話をします。
・前回のお話
認知症の母と散歩
私の家には毎週末来ていたのに、なぜか今回の滞在時には忘れてしまった母は、夜中になると突然トイレを探すという困った行動を繰り返し、私も私の娘も疲労困憊です。
母の滞在中に体調を崩した私の娘に、「一人でゆっくり寝たい」と言われて、母を散歩に連れ出しました。
近所の観光港を嬉しそうにニコニコしながら歩く母は、昨晩も夜中にトイレを探し歩いたのにも関わらず、とても元気で調子が良さそうです。
母は、若い頃から明るく働き者でした。当時私たちが住んでいた町では毎年夏に七夕祭りが開催され、母は勤めていたお店の出店で毎年接客を担当していました。
毎年来てくれる常連がいるほどの名物おばちゃんだった母は、七夕祭りの話を楽しそうにしています。
今日は母の調子が良く、うれしくなった私は、子供のころの話や家族のこと、昔の友達のことを話しました。
「そうそう!そうだったよね。あの時楽しかったね」と、返事をする母は認知症の発症前に戻ったように見えます。
母が認知症になってからは、親子でのんびり話すこともなく、忙しい日々が続いていて、私は久しぶりに以前の元気な母に会えて心からほっとしました。
記憶の取り違え
今日の母ならわかってくれるかもしれないと思い至った私は、私の娘のことを母に相談しました。
私の娘は赤ちゃんのときから体が弱く、学校を休みがちなのです。
私:「うちの娘ちゃんさ、今日も具合悪くて寝込んでるんだよね。どうしてあんなに体弱いのかな」
母:「え?娘ちゃん具合悪いの?でもさ、あの子のお母さん、ミス七夕だから大丈夫よ!」
なんと母の記憶の中では、私はミス七夕になっていました。
先ほど母が話していた七夕祭りのメインイベントにはミス七夕コンテストがあり、母の記憶の中で、私はコンテスト優勝者になっていたのです。
私はミス七夕コンテストに参加したことはありません。
私の中学の同級生でミス七夕に選ばれた方がいるので、恐らくその方と私を混同したのだと思います。
母の記憶の取り違えが起きたようです。
この時私は初めて認知症の症状の一つである記憶の取り違えを経験しました。
これを境に母の記憶の取り違えは頻繁に起こるようになっており、認知症発症前に戻ったような元気な母になることはこの先ないでしょう。
母を1週間お世話した年末に、短い時間ではありますが、以前の元気な母に会えたことを思い出すと、今でもうれしく、また元気な母に会いたい気持ちで涙がこみ上げます。
もっとたくさん母と話したかったです。親子が大人同士の会話をできる時間は限りがあることを教えられた出来事でした。
< 了 >
※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
※健康法や医療・介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず公的機関による最新の情報をご確認ください。
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