ペンネーム:あきこ
プロフィール:ライター兼訪問看護師。看護師歴30年以上。訪問看護は13年の経験があり、がんやその他の疾患での在宅看取り支援の経験も多数。
今回は難病ALSの患者である秀子さんのお話。
53歳。仕事は自動車学校の事務でシフト制。
ご主人は同じ自動車学校の教員。
結婚後、やっと授かった健斗くんが小学校3年生。
「筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっていく病気です。
しかし、筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かし、かつ運動をつかさどる神経(運動ニューロン)が主に障害をうけます。
その結果、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、力が弱くなり、筋肉がやせていきます。
その一方で、体の感覚、視力や聴力、内臓機能などはすべて保たれることが普通です。」
「1年間で新たにこの病気にかかる人は人口10万人当たり平均2.2人です。
全国では、令和2年度の特定医療費(指定難病)医療受給者証所持者数によると10,514人がこの病気にかかっており、徐々に増えています。」
ALSによる寝たきり生活
秀子さん3年前に、痩せてきて疲れやすいことを自覚。
仕事と家庭、子育てで疲れていると思っていました。
買い物に行くと、ダイコンやネットに入った玉ねぎを掴む力が入らず、持ち上がらない。
お箸がうまく使えない感じも気になってきました。
疲れか貧血と思い病院に行くと、大学病院を紹介され、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の診断を受けました。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、運動神経が障害を受け、力が弱くなり筋肉が痩せていきます。
運動は障害されますが、感覚や内臓機能は保たれることが多いという、進行性の難病です。
秀子さんは初めて聞いた病気だと思いましたが、ネットで調べるうちに、テレビで見聞きしていた病気だと繋がります。
進行するので、支援者を探す必要があることや、人工呼吸器や胃瘻を利用するかもしれないことなど、ボヤボヤしていられない気がしました。
治療を続けたものの、症状は進行し、階段の上り下りができなくなり、寝室を1階に移動。
歩くこともできなくなり、ベッドの生活が始まります。
究極の選択
秀子さんは食べることが大好きなグルメ女性で、お友達との女子会ランチが大好き。
2時間くらいゆっくり食事をしながらのおしゃべりで、気持ちが明るくなり、翌日からのエネルギーになりました。
また、自らレストランの予約を買って出て、当日までのワクワク感も生活のハリでした。
病気がすすんでからは、ご家族やホームヘルパーさんがベッドでの食事介助。
食べる楽しさは変わりませんでした。
人は口からものを食べると、気管と食道の交差点で仕訳けし、食道から胃に運び入れます。
筋力が低下すると交差点で仕分けが遅れ、気管に食べ物が入り、むせたり誤嚥性肺炎の原因になります。
秀子さんも筋力の低下と、呼吸困難で飲み込むタイミングが取れず、誤嚥の危険性が強くなりました。
「『咽頭気管分離術』の手術を受ける。」
家族や医療者と何度も相談し、秀子さんは決めました。
この手術で、のどに開けた気管切開孔に人工呼吸器をつけて呼吸をし、口からつながる気管を閉鎖、口からつながるのは食道から胃にかけての消化器官にします。
手術後、食事は誤嚥なく食べられますが、気管の途中にある声帯は使えず、声を失います。
秀子さんは悩みました。誤嚥性肺炎の心配なく食べられるけれど声を失う。
しかも、この手術をしても口や飲み込みの筋肉の低下を予防はできない。
秀子さんは、大好きな「食べることを続ける」ための手術を選択。
秀子さんは、食べています。
電動ベッドで頭側を高くして座り、頭と枕、背中とベッドの密着感を細かく調整して、座る姿勢をチューニング。
「ゴギュッ、ゴギュッ」っと、のどを鳴らしながら、ポトフやケーキを飲み込む顔がうれしそう。
秀子さんの強い願いは、結婚後やっと授かった健斗くんの成長を見守ること。
「できうる限りどこまでも、いのちを持ち続けたいのです」と言います。
人生と向き合う
難しい病気の場合、100%満足する治療の選択肢はなかなか無く、何を大切にしたいかが決め手です。
自分が何を大切にしているのか、夫はどうだろう、両親はどうだろう。
大切にしていること、嫌だなと思うことを、口に出して伝え合っておくと、いざ病気になった時のヒントになります。
気持ちはコロコロ変わるもの。
変わるプロセスを、誰かと一緒に歩む。
それが、大切なことは何かへの答えを磨いてくれます。
家族や友人、病気の時には医療関係者と一緒に、つぶやきを広げて話し合っておきましょう。
決め手のヒントにつながります。
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※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
※健康法や医療・介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず公的機関による最新の情報をご確認ください。
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