ペンネーム:わさお
プロフィール:メーカー事務部門で20年以上勤務、管理職まで拝命いたしました。自身の希望であったことと諸般の事情も重なったため、依願退職し自営業を営むこととなりました。経営は比較的順調だったのでは自負しておりますが、他者からの強い要望を受け譲渡することになりました。今は気楽な仕事を始め、のんびり暮らしております。
かつてはサラリーマンとして勤める会社や仕事内容など全てに満足していた訳ではありませんが、多少は余裕のある生活ができていました。当時は仕事とプライベートは別のものだという考えで、楽しい日々を送っていたのです。
そのような中、よくある話しですが、三十路を超えたあたりで父親が「他の仲間のように孫の顔でも見て一緒に遊びたいな」と言い出しました。内心は「ついにこの言葉を聞く時が来たか」と驚きつつ、言葉では「そうだね」と誤魔かして逃げたのです。
しかし、父親のその言葉と横で半分睨んでいるような母親の表情はどこか心の片隅には残り、親孝行という考えが浮かびました。そうは言っても結婚は自分の問題であり、実の親の言葉であっても惑わされてはいけないと自分に言い聞かせます。
出会い
そのような態度や雰囲気の変化は周囲の同僚などにも伝わってしまうのか、数日後に「色々メンバー集めたので飲み会でもやるか」というお誘い。いわゆる合コンかと疑いながらも喜んで出席し、そこでとある女性を紹介されたのです。
第一印象は見た感じは落ち着いた感じで、多少ふくよかではあるのですが、優しそうで気配りもできる方だなと思いました。同僚の一人に「どんな感じだ」と聞かれたときには、感じたままを話したのです。すると「気に入ったようなら今度二人で遊びに行けよ」と少し前の自分だったら「冗談だろう」と一蹴し、それで終わっていたような提案でした。
どうも周りに乗せられているような不信感も抱きながら日程の調整までしてもらい、心躍るということではなかったのですが再会を果たします。今となれば自分を見失っていた部分もあったと思えるのですが、一緒にいて疲れるわけでも、悪くはないかと感じていました。
結婚と兆し
このような話しは縁とか勢いというものもあるのでしょう、あれよあれよと物事は順調に進展していきます。お互いの両親とも挨拶を交わし、印象もよかったため結婚を前提としたお付き合いとなったのです。
ほどなく近親者たちを集め華やかとまでは言えませんでしたが、すんなり結婚式は終わり無事に入籍という運びになりました。
その時は親孝行もでき、楽しい毎日がやってくるのかな、と淡い思いを描いていた自分がいました。
その後に新婚旅行に行くのですが、気になることがありました。
どういうことかと言うと、楽しいというよりは元嫁の贅沢でわがままな買い物に付き合わされているような思いが強かったためです。
今となれば、その時に兆しが見えていたのでしょう。
新婚生活
新婚旅行から無事に戻り、親や会社にお土産を配り終え、新婚生活が始まります。
最初の二日ほどは手作り弁当を用意され、悪くないスタートです。
しかし三日目には「体調が悪い」と家事もせず、会社帰りに夕飯を買ってこいと会社に電話が入る始末でした。
体調が悪いのなら仕方ないかと、帰宅途中の弁当屋で買い物をし、帰宅。すぐに「大丈夫か?」と尋ね、弁当を見せた時でした。
「お前、こんなものを病人に食わせる気なのか、いますぐ買い直して来い!」
と怒鳴られたのです。
予想外の展開に呆気に取られ、頭が混乱したまま「分かったよ」と買い物に行く自分がいました。
なぜ怒鳴られたのか理解できず買い物に出かけている自分に呆れ、家に戻る頃には怒りもこみ上げ「買ってきたから早く食って寝ろ!」と大声で言い放ちました。
その瞬間せっかく買ってきた食べ物は自分めがけて飛んできて、床に散らばってしまいました。
「どうしてくれるんだ、早く片付けてもう一度買ってこい」
と清々しいまでの逆切れです。
この日を境に私の思い描いていた幸せな新婚生活は、一転して地獄のような日々に変わっていくのです。