シニア海外移住のリアル(3)(イギリスの年金受給と保証制度) 

イギリス在住のげばさんによるシニア層の海外移住に関するコラム第三弾です。

今回はイギリスの福祉保障や年金制度についてのコラムです。

イギリスと言えば「ゆりかごから墓場まで」というキャッチフレーズで有名な福祉先進国のイメージですが実際はどうなんでしょうか。

現地在住者しか知り得ない、リアルな情報をお届けします。

 

過去のお話はこちら

 

今回の寄稿者さま

ペンネーム:げば

プロフィール:1964年生まれ。愛媛県出身。大阪で貿易事務をしたのちキャリアアップのためにイギリスに留学。その時に現地男性と交際→結婚。2児の母となる。

しかし21年後に破局。現在、NHS病院で看護師として働いている。

げばおばちゃまの時間: https://www.geba-obachama.com

ツイッター: https://twitter.com/Geba59121309

イギリスの年金受給と保証制度

イギリスで就労した時、自動的にもらえる番号がある。

National Insurance number (国民保険番号)というが、日本でいうマイナンバーと同じものであろう。

 

この番号は生涯変わることがなく、税金や保険料などの管理に使われるのである。

そして国民はその番号に沿ってNational Insurance contribution (国民保険料)という税金を納めることになり、その税金を納めた国民は、自動的にState Pension (国営年金)に加入となる。

もちろん入ってすぐにはもらえない。

国民保険料を35年間支払い続けた国民だけが67歳になった時に週£185.15(2023年時点で、3万274円)、国から支給されるのだ

 

ただし35年支払っていなくても10年以上支払っていれば全額ではないが部分的年金が支払われる。

イギリスの年金と主婦

ある日、年金受給が始まった親友のチェリーに質問してみた。

「ねえ、チェリー、あなたの年金は部分的年金ってやつなの?」

「いや、全額もらってるよ。」

チェリーはすまして言う。

 

私は驚いた。

 

「えっ!でもチェリーは35年も働いてないじゃない!」

「うん、そんなに勤めてないけどさ、子供のいる主婦は育てている年数分、加算されるのよ。

私の場合、給食のおばさんやったり、ちょこちょこ指圧で稼いだりして合計でなんとか35年になったのよ。」

 

つまりチェリーの場合、

 

  • 育児専念 16年間
  • 給食、指圧のパートタイムワーク 15年間
  • ケアホーム勤務 4年間

 

と、こういう内訳になってるらしい。

贅沢しなくて、家が持ち家で、ローンが終わっていたら、まあ暮らせない金額ではない。

 

そしてもう一つ、イギリスにはプライベートな年金もある。日本でいうところの社会保険だろうか?

これはオプショナルな年金で、勤続年数、退職時の給金により、だいぶ違ってくるのだ。

知り合いのナースはN H Sで定年まで勤め上げ、今は年金だけで悠々自適な生活をしている。

なお、この年金は夫の名前であっても、離婚したら夫婦で分けられ、妻が半分所有できる。

国営年金の方は個人所有のため離婚しても分けられることはない。

 

年金だけでは生活できない人のための制度

それでは年金を十分にもらえないシニアたちはどうやって生活していくのだろうか?

イギリスにはPension Credit (年金クレジット)という制度がある。

これは低所得者救済措置の中の一つで、週に受け取る額があまりに少ない時、

最低ラインである週£182.60(3万円)、ペアの場合は £278.70(4万5630円)になるまでの差額を国が支払う制度である。

 

これはクレジットという名前だが、払い戻しする必要はない。

しかし、虚偽の申請が発覚すれば全額払い戻しをしなければならない。

 

そのほか、低所得のシニア層救済措置に以下のようなものがあげられる。

  • Housing benefit (シェルターや家の賃貸料のサポート)
  • Council tax reduction (居住の税金支払いのサポート)
  • Help with health costs (医者の処方薬、基本的な歯や目の治療費用のサポート)
  • A cold weather payment (0度を超える寒い日が7日以上続く場合、1週間に£25支給される)
  • A winter fuel payment (燃料費の高騰を受けてシニアに年に一度£150-£300支給される)

※出典www.gov.uk

「ゆりかごから墓場まで」の意味

弱きものにも救済を与える至れり尽くせりの制度。

世界大戦後のイギリスにおける社会福祉政策のスローガンである「ゆりかごから墓場まで」に相応しい制度である。

さすがは福祉大国!

 

しかし、ここが英国福祉の落とし穴である。

 

普通の年金生活者はパートタイムで働いたりする。

年金だけでは足りないからだ。

 

しかし、年金クレジットを受けている人たちは、稼いだら収入最低ラインを超えてしまう。

そうなると国からの援助がストップするので働かないようになるのだ。

そのため彼らの収入は週£182.60以上に決してならない

 

つまり、裕福にはなれないのだ。

 

私の知り合いで、低所得者の保護を受けている人がいる。

40代後半の彼女はまともに働いたことがない。

余分に働けば、国からのベネフィットがストップするからだ。

 

彼女は幼馴染の男性と同棲し、若くして3人の子持ちになった。

カウンセルハウス(低所得者に国が斡旋する住宅)に住み、パートナーと小さい子供3人、加えて猫と犬まで飼っていた。

 

小さい子供がいる上に、動物までいるのだから掃除が大変だろうなと思ったが、彼女の家は床が見えないほど散らかっている。

シャンプーとか歯ブラシなどが無造作に積まれた洗面台は、彼女がいかに掃除してないかを物語る。

 

専業主婦で家にずっといるけれど家事をしない。

かといって外に出て働くこともしない。

まして仕事を見つけるために資格を取ろう、そのために勉強しようなどとは決して思わない。

 

ホリデーに行く余裕もない。

唯一の楽しみは喫煙である。

そしてそんな生活を改善しようとも思わない。

ただなんとなく生きていくのだ。

 

時は流れ、子供達は大人になり、彼女の元を離れた。

パートナーとの仲もこじれ、彼も離れて行った。

 

1人になった彼女はやがて腎臓を患い、透析のために毎週病院に通っている。

生活保護をもらうために「働かなかった」彼女は、病気になって本当の「働けない」身体になったのだ。

 

彼女のように何もせず、家に引きこもり国に養ってもらっているイギリス人は数えきれないほどいる。

貧しい人を救済するためのシステムが、結果として貧しい人を生み出すというシステムという残念な結果になっている。

 

「ゆりかごから墓場まで」というスローガン。

その「ゆりかご」は抜け出すことができない貧しい生活であり、「墓場」というのは貧困層が集まり埋葬される場所のことである。

 

タダ(無償)ほど高いものはないと改めて実感した次第である。

< 了 >

 

※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
※健康法や医療・介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず公的機関による最新の情報をご確認ください。
※記事に使用している画像はイメージです。

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