【認知症】おばあちゃんとセラピー犬【介護】
今回の寄稿者さま

ペンネーム:あきこ

プロフィール:ライター兼訪問看護師。看護師歴30年以上。訪問看護は13年の経験があり、がんやその他の疾患での在宅看取り支援の経験も多数。

恵美さん(60代)のお母さん「チエさん」(92歳)は独り暮らしをしています。

10年前に嘔吐及び発熱のため病院へ行くと胆石が見つかりました。石を取る処置はせず、胆汁の流れをよくするお薬を飲みながら経過観察中です。

4年前には、心臓に栄養を与えている冠動脈(かんどうみゃく)という血管が一部狭いことが心電図やエコー検査で分かりました。

狭い血管を広げるためのカテーテル治療はせずこちらも様子を見ています。

高血圧症と心臓弁膜症が原因の慢性心不全となり、1か月に1回程度の外来受診をするときに、これらの病気の経過を見ている状態です。

理由はアルツハイマー型の認知症

胆石や心臓の血管カテーテルの治療をしなかったのは、チエさんにアルツハイマー型の認知症があったからです。

検査や治療を安全に受けるときに、チエさんの協力は必須。検査や治療の説明をおおよその理解をして、段取りの動きをしてもらったり症状を伝えてもらったりする場合もあります。

数時間から一晩の安静が必要な場合は、用事があればナースコールを押すことの記憶も必要。

説明の理解が不十分だったり、注意事項を何度も何度も忘れてしまうことがあったりすると危険です。

全身麻酔をする方法もありますが、身体への負担が強いため簡単ではありません。

 

恵美さんはチエさんの様子を見ていて、つらい検査や安静を納得して協力することは難しいと考えました。

チエさんは昔から「ばあさんになってから、痛いことや苦しいことをして長生きさせないでほしい」と、テレビの特集やドラマでそんなシーンがあると恵美さんに訴えていました。

チエさんの日常生活はごみ収取の日も守っており、鍋を焦がすこともないのですが、同じことを何度も聞いたり、初めて聞くように感心したりして生活しています。

難しそうな検査や治療の場合は、みんなで相談して受けない選択をすることもあったのです。

 

ペットとの生活

チエさんは猫のシロを飼っていましたが、昨年寿命が尽きて死んでしまいました。

チエさんは、若いころから猫好きでこれまで一緒に生活してきたため、新しい猫を欲しがります。

恵美さんは、チエさんの年齢を考えると猫が残った場合に引き取る親戚がいないので、やめるよう説得。

それでも会うたびに、さみしがり猫を飼いたがります。

家の片付けもしなくなり、億劫がるようになりました。

かわいそうに思い、恵美さんの家で飼っていた犬のハナを預けてみることに。

 

しばらくして、恵美さんが遊びに行くと、ハナはずいぶん太っていました。

6キロくらいの体重が10キロになり、動物病院で受けた診断は糖尿病。

チエさんが餌をやったことを忘れて餌を与え続けた結果です。

 

ちょうどそのころ、チエさんも体重が増えて、足のむくみが強くなり指で押すと指のあとがへこんだままになり、トイレに歩くと呼吸が荒くなりゼイゼイしていました。

心不全が悪化したようです。

チエさんは入院し治療を受けました。

入院中のチエさんは、大きな声で治療を嫌がったり、夜に廊下を歩き回ったり、「そこにライオンがいるでしょう、どうなっているのかしら」など混乱することもありました。

早めに心不全の治療を終えないと、病院で認知症が進みそうでしたし、ケガの危険も心配の種でした。

 

犬の癒し

チエさんの一人暮らしが難しいことを感じた恵美さんは、退院後の同居を検討。

ハナはというと、チエさんの入院中に動物病院で治療を受け、元の体重に戻り元気になっていました。

チエさんは気ままなハナとの一人暮らしが気に入っていて、同居は嫌がりましたが、ハナがいることで渋々承諾。

一旦ハナを預けて置いてよかったなと恵美さんも思いました。

 

同居を開始したチエさんは、食事量や塩分、水分量が安定し身体の状態は安定。

恵美さんが、病院の栄養士さんにアドバイスを受けた減塩やカロリー控えめの食事を作り、毎朝体重もチェック。

 

ハナも大切な役割を担っています。

チエさんがする同じ話を、ハナは何度も何度も初めて聞いた話のように「くぅーん」と相槌をうってくれます。

自分の話を最後まで聞いてもらいチエさんは満足です。

お昼寝や夜の就寝時は布団に一緒に入って寝てもいます。

節くれだつ指が柔らかい毛を撫でながら、いつしか眠るのでした。

いつも一緒に過ごしながら、気持ちも癒され穏やかに過ごせるようになりました。

認知症の忘れっぽさはありますが、感情は安定しニコニコし、大声を出したり、怒ったりすることはなくなりました。

 

大好きな相手やペットとのスキンシップは、幸せホルモンと言われる「オキシトシン」(※1)の分泌に有効と言われています。

恵美さんはハナのことを「おばあちゃんのセラピー犬」と呼んでこのカップルを見守るのでした。

 

※1 学会誌vol42-No2_本文-27.indd (jst.go.jp)


< 了 >

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※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
※健康法や医療・介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず公的機関による最新の情報をご確認ください。
※記事に使用している画像はイメージです。

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