ペンネーム:あきこ
プロフィール:ライター兼訪問看護師。看護師歴30年以上。訪問看護は13年の経験があり、がんやその他の疾患での在宅看取り支援の経験も多数。
今回は加奈子さん(58歳)のお話。
加奈子さんは高校卒業後、県外で仕事をしていました。
母親の千鶴さんがパーキンソン病で、休みが数日取れた時に様子を見に来ていました。
昨年千鶴さんは体調を崩し入院。
その後、ほぼベッドでの生活になったため、加奈子さんは早期退職をして実家に戻ってきました。
入院から自宅介護へ
千鶴さんは飲み込みの力が弱ったため、食べ物や飲み物が気管に入りやすい状態です。
気管に間違って入ってしまうと、誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)を起し、命取りになる危険もあります。
千鶴さんの声は小さく、会話は少なくなっていましたが、意思表示はできます。
加奈子さんのお兄さんも医師の話を聞き、検討の結果「胃瘻」を作ることに決めました。
退院するときに、ベッドを用意しました。
ベッドは介護保険制度を利用してレンタル。
電動ベッドで、ベッドの高さや頭を上げ下げなどが電動でできます。月に8千円から1万円のレンタル料。
加奈子さんが千鶴さんのお世話をするときには高さをあげて42㎝位に、夜に寝るときは落ちてけがをしないように15㎝程の高さに下げます。
頭や膝の部分が上がるので、ゆったりした姿勢で胃瘻から栄養を入れたり、くつろぐときにはテレビを見たりできます。
居間での生活と、寝室での休息の場所が確保できるとメリハリがあるのですが、ベッドを2つは非現実的。
居間のソファーに腰かけると身体が倒れてしまい、今の千鶴さんにはベッドが必要です。
ベッドの配置
ベッド、どこに置いたら良いかしら。
加奈子さんの候補は、仏間と、玄関を入ってすぐの部屋のどちらか。
仏間は、もともと千鶴さんの寝室。
北向きで落ち着く光が入りますが、やや寒い。
畳の部屋に重たい電動ベッドを置くのも気になります。
居間から仏間に入るときに段差があり、胃瘻の栄養をもってつまずかないかしらと気になります。
玄関を入ってすぐの部屋は日当たりもよく、週に2回通う予定のデイサービスに出かけやすそう。
居間からは遠いので、台所で作業をしている時には音が聞こえず様子が分かりにくい。
夜は加奈子さんの寝室から遠くなり余計に心配。
「居間はいかがですか?」と聞いてみると、加奈子さんは驚いた表情をしました。
台所の音や、加奈子さんが夜更かししたときについている電気のあかりで、本人がゆっくりできないのではないかと思ったからです。
居間で介護するメリット
訪問看護をしていると、居間のベッドで過ごす方はいます。
家族みんなが生活している中での療養は、在宅介護ならでは。
排泄のにおいの心配がありますが、食事の時間とぶつからないことも多いですし、換気や消臭スプレーを使用することで気にならないことも多いのです。
家族の視線が集まりやすく、かといって面と向かって対峙するわけでもなく、自然にお手伝いをしたり求めたりできます。
加奈子さんは居間にベッドを置くことも候補に入れて、位置を検討し始めました。
いくつかアドバイスをしました。
千鶴さんは、生活に介護が必要な状態です。
ベッドの右にも左にも、人が立てる空間があるとよいでしょう。
右利きのご家族にとっては、歯ブラシをもって口の中をきれいにするとき、おしりパットの交換のときなど、スペースが広いと楽なのは寝ている本人の右側。
他のご家族に手伝ってもらうときや、シーツの交換をするときに、左にもスペースがあると腰の負担が減り、作業もはかどります。
立って動いている時や座っていると気になりませんが、照明が目に入る角度も要検討。
寝ている時や、少し頭をあげた時に照明があると目を開けているのがつらいです。
介護用品はカゴなどに用途別にまとめるとよいでしょう。
- お口をきれいにするカゴには歯ブラシや口腔スポンジ、コップなど。
- 胃瘻用には注射器やチューブ、お薬を溶かす容器。
- おしも用には石鹸、洗浄用のボトル、おしりパット、防水の敷物。
必要な時に、カゴを選んでベッドにもっていくと便利です。
ビニール袋やティッシュは目にすぐ入る場所にあると楽ですね。
加奈子さんは、対面キッチンから目の届くところに千鶴さんのベッドを置きました。
テレビは見やすいところに移動し、介護用品は3段ワゴンにお口用、胃瘻用、おしも用とグッズを揃えました。
台所で作業をしていても、千鶴さんの様子がなんとなく目に映ります。
加奈子さんは台所からテレビを見るときにも千鶴さんの様子がわかります。
千鶴さんは、加奈子さんの雰囲気を感じながら過ごすことができ安心して過ごしています。
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※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
※健康法や医療・介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず公的機関による最新の情報をご確認ください。
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