【自宅介護】答えは顔に書いてある【訪問看護】
今回の寄稿者さま

ペンネーム:あきこ

プロフィール:ライター兼訪問看護師。看護師歴30年以上。訪問看護は13年の経験があり、がんやその他の疾患での在宅看取り支援の経験も多数。

今回は登美子さん(57歳)のお話です。

夫は15歳年上で72歳。お子さんはいない。

夫の昭さんが、12年前に脳梗塞でほぼ寝たきり。

登美子さんが介護をしている。

病気で仕事はできなくなり、二人は生活保護を受給しています。

介護の達人

訪問看護をしていると、ベテランのご家族から学ぶことも多数あります。

毎日愛情をもって接しているので、ご家族は専属のプロフェッショナルになっているのです。

 

登美子さんの股関節の調子が悪くなってきました。

昭さんの入院のタイミングで、介護負担を減らす相談。

ホームヘルパーが毎日訪問し、看護師も病状の観察と処置のため週に2回訪問することになりました。

 

初めての訪問時、いつもの通りのケアを登美子さんに教わります。

 

主なケアは2つ。

 

  • 1つ目は、痰をうまく出すことができないので、細いチューブを鼻や口から入れて吸引器で痰を取ること。
  • 2つ目は、便秘のため浣腸で便を出した後、おしりをきれいにしておむつを当てること。

 

まず、1つ目の痰を取ることを見せてもらいます。

 

登美子さんが「こんな感じですね」と、痰を取って道具を片づけました。

私は思わず「え? 早すぎてよく見えませんでした。」と言ってしまいました。

 

まるで合気道の演舞のように、手指消毒、痰を取るチューブを取り出し、鼻にチューブを挿入、痰を取り、チューブの外側を消毒綿で拭き、チューブに水を吸わせて中をきれいにして、元の場所に戻すのです。

 

流れるように、一切の無駄のない、乱暴ではなく愛のある一連の手技。

 

次のタイミングでは、私が痰を取ります。

新人の頃、先輩の前で指導を受けた時のような高まる緊張感。

「まあ、いいんじゃないでしょうか。」と合格点でほっと胸をなでおろします。

 

2つ目は、お通じの対応です。

 

こちらも素人さんとは思えない。

慎重かつ大胆に便を取り、1つのビニール袋に拭き取ったトイレットペーパーと一緒に入れます。

もう1つのビニール袋は、浣腸の入れ物や汚れて脱いだ使い捨て手袋を入れていきます。

そのどちらのビニール袋も周りを極力汚さず、今手に付けている手袋をも汚さず、手際よくきれいに。

 

ビニールを2つにしたのは、トイレに流す方と、ごみにする方に分けるためです。

 

おしりを石鹸とお湯で洗い流し、水気をタオルで拭き取り、おむつをして終了。

ごみ箱にビニール袋や外したパットなどを持っていこうとすると、またもや登美子さんの独壇場。

 

汚れ物の入ったビニールをパットにくるみ、空気が入らないよう、きっちり新聞紙で包装。

新聞紙はにおいを吸着してくれる便利な介護道具でもあります。

 

市のごみ袋がプラスチックのごみ箱にぴったりとセットされており、汚れ物を入れていきます。

 

「沢庵を漬けるように、きっちり入れてね。沢庵の漬物のようにね。」

 

取り換え終わり、新聞紙で包まれた先客のパットたちが沢庵のように並んでいます。

 

介護離職の問題

昭さんは介護保険の要介護5です。

介護保険制度は2000年に、家族の介護負担を軽減して社会全体で支えるために創設されました。

要介護の認定は5段階あり、この段階は介護に要する手間がどのくらいかを調査員の調査や医師の意見書を参考にして審査会で決められます。

介護5は誰かの介護なしには日常生活を営むことがほぼできない状態です。

昭さんは体の向きや位置を整えなければ床ずれができますし、痰を取らないと肺炎のみならず窒息の可能性もあります。

 

介護を理由として離職する方は毎年約10万人いると言われ、介護離職は2012年の調査で10万1千人、2017年は9万9千人でそのうち女性は75%を超えています。

参考:平成29年就業構造基本調査 結果の概要 (stat.go.jp)

男女,就業状態・仕事の主従,年齢,前職の離職時期,前職の離職理由別転職就業者数及び離職非就業者数(平成24年10月以降に前職を辞めた者)-全国

 

介護離職は50代から60代前半が特に多く、その何年か前から介護を担いながら仕事をしている方も少なくないことでしょう。

早い段階での介護制度、ITや介護ロボットのサポート体制確立が急務といえます。

 

登美子さんは楽しそうに、カバーを自分で縫ったクッションを昭さんの手、足、腰に当てています。

あれこれクッションを選び、クッションの中央をポンポンとへこませ、昭さんの身体がしっくり当たるようにしているのです。

 

昭さんの居心地が悪そうに見えた時、どうするとふんわりした顔になるのを考えながら対応しているうちに、登美子さんの介護はますます洗練されていくのでしょう。

 

クッションに埋もれて、心地よさそうな表情とリラックスして力が抜けた身体。

すべての答えを昭さんの顔が教えてくれます。

 

< 了 >

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※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
※健康法や医療・介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず公的機関による最新の情報をご確認ください。
※記事に使用している画像はイメージです。

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