ペンネーム:あきこ
プロフィール:ライター兼訪問看護師。看護師歴30年以上。訪問看護は13年の経験があり、がんやその他の疾患での在宅看取り支援の経験も多数。
今回は美千代さん(52歳)のお話。
サラサラのボブヘアが知的な雰囲気にマッチいている女性。
経理の仕事を長年していて、職場でも慕われています。
お風呂に入っている時に、左胸に小さなしこりを感じました。
1つだし今なら早期の対応になるだろうと思い、病院に行きました。
詳しい検査を受けると他にも小さながんが見つかり、手術後、がんの化学療法を行うことになりました。
美千代さんの使用する化学療法の副作用には脱毛があると説明を受けます。
化学療法と向き合う
がんだと医師から告げられ、自分が見つけた1つだけではないことを知り、ショックで呼吸が苦しくなりうまく息が吐けないことがありました。
肺が空気でいっぱいになり、空気でおぼれそうな苦しさを感じ、涙がボロボロ。
夫や子供には努めて気丈にふるまいましたが、仲良しの友達や職場のごく一部の仲間には、つらい気持ちを聞いてもらうことが何度かありました。
抗がん剤で脱毛することを聞いて、美千代さんはまた一段と不安と悲しみがこみ上げてきました。それでもがんの告知を受けた時とは違い、何とかきれいでいたいと強い思いがこみ上げます。不思議なくらい「どうにかしなきゃ」と背中を押される感じ。
副作用は、化学療法の特徴や個人差により異なる場合があるため、医療スタッフによく確認することが大切です。
美千代さんの治療に使うお薬は、高度に脱毛が出ることがわかっていましたので、治療前の体力があるうちにウイッグの準備をすることにしました。
病院で紹介された医療用ウイッグのお店に行ってみました。
迎えてくれたのは、自らも乳がんで化学療法を受けたことのあるアドバイザー。
美代子さんは、気持ちをわかってくれて、ゆっくり寄り添ってくれるアドバイザーの存在にひとりぼっちじゃないと感じます。
化学療法の準備
一般的には、化学療法の治療が始まると2~3週間で脱毛し始めます。
毛穴にある毛母細胞は体の中では細胞分裂が盛んなところで、化学療法の影響を大きく受けるのです。
治療が終わると毛は生えてきますが、最初は産毛のようで、くせのあるくるくるした毛やうねうねした毛が生えます。元の毛に似た状態になるのは1年くらいかかり、その時で長さは10㎝位。
ウイッグを開始するときも悩みますが、ウイッグを卒業する時期も悩みます。
長めの髪型でウイッグを作ると、急に自毛のベリーショートになったり、自毛が伸びるまでウイッグの期間を長く調整したり。
短めを選んだほうが、ギャップが少なくお手入れも楽ではと提案がありました。
普通、髪の毛の分け目は白い地肌が見えます。ウイッグの場合、分け目が黒いネットよりも白っぽく見える方が自然とのアドバイスも。
治療期間プラス1年くらいお世話になるウイッグ。
美千代さんは毎月の美容院代金の2年分と思い、納得できるウイッグを作りました。
頭の大きさは髪の毛がほとんどない時期と生えてきた時期とで変わります。
フィッティングの調整も受けながらこれからをやっていこうと決めました。
眉毛やまつげも抜けるため、コンタクトレンズをやめて少しはっきりと縁のあるメガネにしてみました。
化学療法後の生活
美代子さんの治療が開始。
1週間に1度点滴を受けに外来通院。
美代子さんはヘアスタイルをボブからショートにしていました。
ウイッグはショートカットのものを用意。
2週間するとハラハラと抜ける髪の毛を見て、話は聞いていましたのでこれがそうかと思いました。
その後、バサバサと抜けていき、枕についた髪の毛や、あちこちに抜けている髪の毛を掃除するときに脱毛を実感しました。
職場や外出時はウイッグをし、家では帽子。
帽子は綿素材で縫い目が地肌に当たらないもの。
化学療法中は皮膚も弱く過敏。
帰宅してウイッグを外してから、柔らかい帽子で頭を覆います。
美代子さんは今日も一日頑張った自分をほめてあげるのでした。
治療が終わり、1か月すると髪の毛がふんわり生えてきました。
茶色くクルクルした毛で赤ちゃんのよう。
髪が生えてきたのはうれしいけれど、この髪質に変わるのかしらと様子を見ていると、半年もすると以前よりは柔らかいものの、しっかりした髪になってきました。
抗がん剤が、がんと戦ってくれて毛根にもダメージが来て髪が抜けました。
治療の効果だと思い乗り越えたのです。治療を終え、髪の毛が生えて伸びていく鏡に映った姿。
元の自分に戻っているような気持ちになります。
「あともう少し髪が伸びて、くるくるした頼りない毛先をカットしたら、ウイッグを卒業しよう」
鏡の中の自分に、美代子さんは言い、ふたりはにっこり微笑みあいました。
< 了 >
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※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
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