【高齢者専用住宅】介護状態に伴う施設の変更【老人ホーム】
今回の寄稿者さま

ペンネーム:あきこ

プロフィール:ライター兼訪問看護師。看護師歴30年以上。訪問看護は13年の経験があり、がんやその他の疾患での在宅看取り支援の経験も多数。

今回は池田さん(92歳)のお話。

サービス付き高齢者住宅の「みどり」に住んでいました。

夫は10年前に亡くなり、お子さんはいません。

「みどり」に入るときの保証人は、バスで乗り換えを含めて1時間ほど離れたところに住んでいる姪でした。

池田さんの弟の娘。

弟さんは85歳で、池田さんの書類や直接のお世話は困難なため、姪が保証人となりました。

サービス付き高齢者住宅での生活

夫を看取り自宅で一人暮らしをしていた池田さんは、足腰が弱り庭の手入れや一軒家の掃除も手が回らなくなり、鍋を焦がすことも出てきたため、家の近くの高齢者住宅に入りました。

高齢者住宅には4年住んでいましたが、転倒をするようになり、職員の人数が多い施設を勧められ、現在のサービス付き高齢者住宅に9か月前に移ってきました。

 

91歳で、なじんだ場所やお友達と別れ、新しい施設への転居。

残念に思っているものの、身体が思うように動かず転倒を繰り返すため、仕方がないと引っ越しを受け入れました。

 

新しいサービス付き高齢者住宅では、足腰の筋力維持やバランス力のためのリハビリを開始し、部屋に転倒予防の道具を活用。

ソファーやベッドからの立ち上がりを楽にするため、設置型の手すりを置き、壁や家具など掴まる所がない場所には、天井と床に介護用のつっぱり棒をセットしバランスを崩さないように工夫しました。

夜眠れないため飲んでいた、睡眠導入剤もやめていきました。

夜に眠れないとおっしゃるものの日中にうとうとしてしまい、昼夜のリズムが悪いため、職員は食事の声掛けの際に日中に動くように勧めました。

新たな施設の検討

新しい生活に慣れたころ、部屋の中で方向を変えるときにバランスを崩したり、下のものを取ろうとかがんだあとに後ろにひっくり返ったりするように。

食堂やお風呂場に行くときに使っていた介護用の手押し車を、部屋の中で使うようにしました。

テレビを見ている間に手押し車のことを忘れたり、洗面所で口をゆすいでいる間に忘れたりして、手押し車が池田さんと離れたところにむなしく置いてきぼり。

あばら骨に青いぶつけた痕や腰の痛みを訴えることが増えてきました。

 

池田さんには、再度住む場所の検討がなされました。

個室で転んで叫んでも、誰も気づいてあげられません。

食事や入浴の介護サービスが入るときに初めて発見したり、痛みの場所を確認するときに青あざがあるのを見つけたりしてとても心配。

食事や入浴などの介護サービス以外にお世話をする体制にはなっていないのです。

転倒の問題がなくても老化が進み生活が成り立たない場合、この施設で最期のお看取りまで暮らすことはできませんでした。

 

「ここの人たちは大丈夫よ。居ていいよと言ってくれるけど、私自身ここでの生活は無理な気がするの。来てくれて、話も聞いてくれるけど、私の症状はわかってもらえてないなあと思うの」

 

86歳から92歳の間に、引っ越しが3回。

姪は介護保険のケアマネージャーと相談したり、高齢者施設の案内を取り寄せて見学を申し込んだり忙しく対応しています。

姪が顔を出しやすい距離でもともとの住まいと離れたの住宅型有料老人ホームに移ることに決まりました。

施設のあり方について思う

住宅型有料老人ホームへの引っ越しが1か月後に迫ったある日、訪問看護で伺うと「頭が回らないし、言葉も出なくなったわ」と、池田さんは悲しい顔で言います。

テーブルには金子みすゞさんの詩集があり、一緒に「星とたんぽぽ」を読んでいると、池田さんは言いました。

 

「お散歩に行きたいわね」

 

池田さんは安全にお散歩ができるほどの脚力はありませんでした。

お部屋の窓辺まで介助で歩き、窓を開けて風を受けると「あー、気持ちがいいわね」

しばらくすると疲れたのか「座ります」と、1分立っていることが散歩ほど長く感じる様子。

 

次の訪問時は、食後の歯磨きをしないままソファーで居眠り。

ぬるま湯を入れたコップと洗面器をソファーまで運び、うがいを促しますが口に水を含むと少しむせ、それ以上うがいをしたがりません。

入れ歯を外し洗面台できれいにしてから入れなおすと、「おなかがすいた」とおっしゃいます。

 

テーブルには昼食についたデザートの小さなたい焼きの袋がありました。

促すと「食べたいけど、袋が開けられないの」と。

手の力が弱くなり、袋菓子を開けるのが困難なのです。

 

大好きだった缶のココアも、池田さんの3階の部屋から、自動販売機がある1階に買いに歩くことはできません。

冷蔵庫には、かりんとうや一口サイズのバームクーヘン、缶ジュースや水が鎮座。

部屋には電子レンジはなく、湯沸かしポットのコンセントは安全対策で抜いてあります。

ポットで沸かした湯とティーバックで緑茶を入れ、たい焼きの袋をあけて、ティータイム。

 

池田さんは数口食べてお茶をすすり、

「短い間でしたが、楽しかったです。あっちに移ったら同じ看護師さんに来てもらえるの?これからのことを考えようと思うけど考えられなくて、どうなるのか」

 

介護状態に合わせて、池田さんの住む施設は変わりました。

人が施設に合わせて移動するのではなく、サービスを調整することで安心して幸せに暮らすことは難しいのでしょうか。

 

< 了 >

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※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
※健康法や医療・介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず公的機関による最新の情報をご確認ください。
※記事に使用している画像はイメージです。

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