ペンネーム:田舎の看護師
プロフィール:男性看護師、看護師歴6年、26歳。急性期内科、消化器外科を経験し整形外科病棟にて現在勤務しています。
80歳台後半の女性(Aさん)。
消化器内科の内視鏡手術後に点滴と尿道カテーテルを挿入した患者さんが、私の夜勤中病室の周りの至る所に血痕を残し、病室からいなくなってしまったお話です。
内視鏡手術ってどんな感じ?
そもそも、内視鏡の手術というと皆さん想像がつかないと思います。
簡単に説明させて頂きますと、健康診断の時の胃カメラの検査の延長線上で食道や胃の手術をおこなうものです。
私が勤務していた病院では内視鏡で胃の手術を頻繁におこなっていました。
胃カメラをされた方はご存じかと思いますが、胃カメラの際に喉に麻酔をされたかと思います。
内視鏡の胃の手術でも咽頭麻酔をしていますが、なかには手術中に暴れてしまう危険性があると点滴で一時的に眠って頂いてから手術をおこなったりしています。
今回、登場します80歳代後半の女性、Aさんは元々自宅で生活されていましたがご家族のお話では最近認知症が進んできていて…なんてお話があったので、手術中に暴れてしまいうまく胃カメラを呑み込めない危険性があり点滴で眠って頂いてからの手術となりました。
せん妄防止大作戦
そんなAさんの手術は無事に終わり、夕方頃に病室へ戻りました。
私はこの日夜勤であったので手術後からAさんの担当となりました。
看護師の夜勤の始まりは、その日担当する患者さんの情報取集や引継ぎ、病室へ挨拶にいく所から始まります。
Aさんは手術後麻酔の影響もありしっかり眠っていました。ここで怖いのがいわゆる、術後せん妄というものです。
せん妄とは専門用語になってしまいますが、簡単に説明しますと普段と環境が変わってしまうと、麻酔から目を覚ました際に「ここはどこだ?」となりパニック状況になることです。
これは高齢の方になる程、せん妄というものは起こりやすくなります。
看護師はせん妄のリスクを承知した上で、事前に患者さんがパニック状態になったことを察知し予期せぬトラブルが起こらないように予防していくことも仕事のひとつとなります。
具体的になにをしたかといいますと、簡単なセンサーをAさんに装着させて頂き、起き上がったら察知できるトラップを仕掛けました。
血まみれの逃走
そして静かに消灯時間となり、Aさんの病室からラウンドしました。Aさんは麻酔から覚めたものの寝ており、ほっとしながらAさんの病室を後にしました。
その日10人程受け持ち患者さんがいて残り2人くらいになった時に、なんだか嫌な予感がしてなんとなくAさんのお部屋に行ったところ事件は起きていました。
病室の入口は少量の血痕が至る所に付着しており、病室には既に抜かれている点滴と尿管カテーテルがあり、Aさんは病室にいませんでした。
慌てた私は周囲を見渡しました。すると血痕がエレベーターの方にぽつり、ぽつりと落ちていたのです。
直ぐに私は他の看護師に応援をよび、エレベーターから病院の玄関に向かいました。
玄関を見渡しますがAさんはおらず、普段警備員がいるのですが何故かいませんでした。
恐る恐る外にでてみるとなんと、病衣に血を付けながらタクシーを呼んでいました。
ひとまずAさんを発見したので一件落着となったのですが、落ち着いたところでAさんにどうしたものか尋ねた所「よくわからないから家に帰ろうと思った」とのこと。
そんなことあるのかと一般の方は思うかもしれませんが、これが看護師の日常です。
最後に
今回の体験談から私が何を伝えたいのかと言いますと、今回のお話に近いことが皆さんの身の回りにも起こりえます。
ある日大事なおじいちゃん、おばあちゃんがいなくなってしまったなんてことが実際に起こる可能性があります。
そうなる前に日ごろから気にかけたりしてください。
以上、田舎の看護師のお話でした。
< 了 >
※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
※健康法や医療・介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず公的機関による最新の情報をご確認ください。
※記事に使用している画像はイメージです。