ペンネーム:ごぼう
プロフィール:リハビリテーション病院へ入職し、作業療法士歴10年ちょっとです。現在も現役で働いています。
リハビリテーション病院とは、その名の通り「リハビリテーション」に特化した病院です。
病気やケガを理由に、ご自宅での生活が困難になった方をはじめ、日常生活の動作をスムーズに行いたい、仕事や余暇活動ができるようになりたいという方々を支援する場となります。
今回は、こんなリハビリテーション病院を舞台に、困ったご家族の話をさせていただきます。
癖のある孫
私たちリハビリテーションスタッフは、病院のスタッフが不足している際に、緊急対応の手伝いとして救急搬送された患者を誘導することがあります。
ある日、救急車が搬送され到着したのですが、到着時にすでに「オーライ、オーライ、違う違うバックして、もっともっと、はい、オーケー」と大きな声で救急車を誘導している青年がいました。
本来ならば医療関係者のみがその場におり、現場の管理をしているはずなのですが、「はい、そこの道どけてねー」などとその青年がとにかく目立ちます。
不思議思い隣にいた先輩スタッフに聞いてみると、その救急車で運ばれた患者の孫にあたる方だということでした。
その孫はなかなかの曲者なので、クセモノさんと呼ぶことにしますね。
クセモノさんはかなり慣れた様子で、年上の医療スタッフに対しても生意気に指示を出していきます。
「はい、寝返りさせたいならこういう風にしてー」
「はい、ナースコールの位置はここはダメー」
「はい、テレビの角度はこうしててねー気を付けてー」
などと、病院スタッフがその患者に対応する度に指示されます。
その発言の真意は定かではありませんが、本当に患者に対しての対応を心がけてほしいというよりも、私たちに自分ができることを見せつけたいという風に感じました。
特に印象的だったのは、私が他の患者のリハビリテーション中で歩行の補助をしている際にも、クセモノさんから声がかかりました。
一度リハビリテーションを中断し、何事かと思い見に行くと「布団のシワを伸ばして」とのことでした。
正直、私も
「それ他の患者のリハビリテーションを邪魔してまで、今言うことか?」
「というか、それくらい自分でできないか?」
と疑問といら立ちが内心ありましたが、とりあえずは丁寧に対応しました。
しかし、私と同じ思いをしたスタッフもいたようで、それが表情にでてしまったのでしょう。
「いま、あからさまに嫌な顔しましたよねー」などと他スタッフが対応した際に言われていました。
癖のある息子
また次の日は、クセモノさんの父、つまり患者の息子にあたる人物が姿をみせます。
肩書は議員秘書のようで、この方といるとクセモノもさすがに生意気口を言えないようでした。
しかしクセモノさんの父もまた、クセモノさんの父だけあって、
「おいおい、このナースコールの位置じゃあ届かないんじゃないかー」
「おいおい、このテレビの角度だと見にくいんじゃないかー」
などと発言。
確認して見ると全て、前日にクセモノさんがセッティングした環境設定となっていました。
それ、全部あんたの息子がしたんじゃないかと思いながらクセモノさんをみると、父親の隣でウンウンと頷いています。
さすがに頭に来ましたが、ぐっとこらえて謝罪し事なきを得ました。
先輩スタッフによると、その患者は2~3カ月に一回ほどのペースで入院するようです。
患者自身の兄弟が議員をしており、その議員活動のために特別枠として入院という形で受け入れているんだとか。
コロナ渦もあいまって、入院患者は常に満床となっており、多くの患者の受け入れを断ってしまっているのに、それでもそのような理由で入院できるのだから不思議です。
現在も、やはりクセモノさん家族は病院を利用しては生意気口をたたいています。
癖は控えめに
ご家族さまが毎日介護を献身的にされており、休息や用事のために預けることが悪い訳ではありません。
もちろん、レスパイト(休息)という目的で入院という形も尊重されていくべきです。
しかし、一般的にはレスパイト目的の入院や一時預かりは地域包括ケア病棟がある病院、医療センターなどの施設などが利用されます。
前述しましたが、リハビリテーション病院は、ケガや病気が原因で今まで行えていたことを再び行えるように患者が戦っていく場所です。
クセモノさん一家のような利用が悪い訳ではありませんが、真にリハビリテーション病院がリハビリテーション病院となることを望んでいます。
< 了 >
※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
※健康法や医療・介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず公的機関による最新の情報をご確認ください。
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