ペンネーム:あきこ
プロフィール:ライター兼訪問看護師。看護師歴30年以上。訪問看護は13年の経験があり、がんやその他の疾患での在宅看取り支援の経験も多数。
沢田さんは52歳の経理課長をしています。
残業はほぼなく定時に帰宅します。
妻の美恵子さんはパートで就業中。
沢田さんより少し早めに家につき、夕食を準備してくれます。
お料理が上手で、毎日の食事は沢田さんの楽しみです。
2人の娘さんのうち長女は結婚して県外に、次女は自宅から専門学校に通学。
寝る前に少しだけお酒を飲みながら家族でおしゃべりすることも沢田さんの楽しみです。
夕食後、ソファーで横になりうとうとすることでエネルギーがチャージ。
お風呂上がりのアイスや水分を取る次女さんと、片付けが終わりのんびりする美恵子さんとのおしゃべりが、傍らで始まります。
沢田さんもハイボールか焼酎で参加。
うんうんと聞いていることが多いですが、至福を感じます。
ちょっとした体調の変化から…
沢田さんは結婚後、美恵子さんのお料理のおいしさで10㎏位幸せ太り。
それ以降は気をつけながら体重コントロールしています。やや小太りが福福しい体形。
数年前から、げっぷや胃もたれの症状を感じるようになりました。
若い娘たちと同じ食事のせいかなと思い、脂っこいものを控えめに調整。
夜寝ていると、咳をすることが多くなりました。
日中は咳も気にならず忘れているのですが、夜中に咳が出て起きることもあるので寝不足気味です。
夕食後のソファーでの一休みも、いつの間にか寝入ってしまうことも出てきました。
咳は3か月くらい前からで、最近は背中も痛いような気がします。
咳のせいで筋肉痛になって背中が痛いのかなと考えます。
長引く夜の咳に、妻も心配で受診を勧めます。
沢田さんも何らかの感染症で、人に移る病気だと困ると思い、近くの内科に相談に行きました。
医師は問診をし、採血と胸のレントゲンを撮りましたが特に異常は見られません。
胃カメラを勧められ、予約を取りました。
げっぷや胃もたれの症状も、ついでに見てもらうためです。
予約の日に胃カメラをして、告げられたのは「ぎゃくりゅうせいしょくどうえん」。
一度聞いただけでは覚えられないような呪文のような病名ですが、漢字で「逆流性食道炎」書くとイメージできます。
逆流性食道炎になっても
国立長寿医療研究センターによると、「逆流性食道炎とは、胃の内容物(主に胃酸)が食道に逆流することにより、食道に炎症を起こす病気」
私たちの胃の入り口には、逆立ちしても胃の中の食べ物が出てこないよう逆流を抑える筋肉があります。
この筋肉が緩むと、胃から食道に逆流が発生。
食べ過ぎや、早食いをして胃がパンパンな時や、肥満でおなかの脂肪が多いと胃を圧迫するので逆流が起きやすくなります。
胃は胃酸を出して食物と一緒に入ってきた細菌を殺菌したり、食物中のたんぱく質を変性させ、そのあとの消化を助けたりします。
胃酸はpHが1-2と言われ強力な酸。胃自体は、胃酸を中和する粘液を出すことで守られています。
食道は胃酸を中和する粘液を出しませんので、胃液交じりの食べ物が逆流すると炎症でただれてしまうのです。
沢田さんは、胃から食道への逆流を抑える筋肉が緩んでいました。
年齢も緩みの原因のひとつですが、食べ過ぎや肥満、デスクワークが多く、前かがみでおなかを圧迫した姿勢が多いことも胃を圧迫し筋肉を緩めた原因でしょう。
最近は控えていましたが脂っこい食事も多く摂取していました。
脂肪が運ばれると十二指腸から消化を促す一方で、胃の運動を抑えるホルモンが分泌され、胃もたれが出現。
食後にすぐにソファーで横になり、逆流がしやすい体勢になっていました。
少量とはいえアルコールを飲み就寝。
胃に食べ物やアルコールがある状態で寝ていたため、夜に逆流が発生していたのです。
逆流は食道の粘膜を荒らすにとどまらず、喉や気管にもわずかながら流れ込み、咳の原因になっていました。
沢田さんは、食べ過ぎ・食べた後のソファーでのくつろぎ・寝る前の晩酌・胃もたれ・夜の咳の流れが頭にイメージされました。
沢田さんは、胃酸を抑えるための注意点を守りながら生活を考え直しました。
今と同じ生活を続けると、食道の炎症の増強で粘膜がつっぱり、食べ物がとおりにくくなる場合や出血する場合の説明を聞いたからです。
医師は夜寝る前に飲む、胃酸を抑える薬を処方。
美恵子さんのお料理はおいしくていくらでも食べられますが、小皿に少量取り分けます。
食後に横になると逆流しやすいので、ソファーには横にならずにもたれて休み、逆流を予防。
寝る前のアルコールは良くないのですが、ごく少量にして、家族のおしゃべりの時間はとりました。
次女もいつか 就職や結婚などで家を出るかもしれません。それまでの時間を大切に過ごしたいと沢田さんは考えたからです。
幸せ太りの体形は少しやせましたが、幸せの実感は高まっているようです。
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