シニア海外移住のリアル(4)(高齢のおひとり様とパワーオブアトーニー③) 

イギリス在住のげばさんによるシニア層の海外移住に関するコラム第4弾です。

高齢者の一人暮らしとパワーオブアトーニーがテーマのコラム第3話になります。

現地在住者しか知り得ない、イギリスのリアルな情報をお届けします。

これまでの高齢のおひとり様とパワーオブアトーニー

過去のお話はこちら

おひとり様が年をとったら、誰に財産を譲るだろう?

やっぱり自分を大事にしてくれる人に残したい。

しかし、その人が本当に自分を大事に思ってくれる人か?それともお金目当てか?

最晩年のおひとり様にはわからない。

権力を持った家政婦

ついに家政婦はパワーオブアトーニーになった。

彼女はこの日を何年も待っていたのだ!

パワーオブアトーニーというのはアンの「実質的保護者」になるということ。

弟子達がアンに会うために、家政婦の許可が必要になった。

家政婦は、アンが弟子達を可愛がっているのを知っているので、

弟子達が連絡してくると何かと理由をつけてアンにあわせないようにした。

せっかく手に入れたパワーオブアトーニーを彼女らに渡したくないからだ。

アンとしては、サインさえすれば、なにもかもうまくいき、家政婦はアンの幸せを中心に動いてくれると信じていた。

しかし実際はその逆だった。中心にいるのはアンではなく、家政婦だったのだ。

あんなに自分を慕ってくれた弟子たちが離れていった。

自分はもう誰にも愛されてない

そう思いこんだアンは絶望した。

そしてこうつぶやくようになる。

「……死にたい。」

アンのエンドオブライフ

次々に入る弟子達の連絡を、家政婦は適当にあしらっていたが、

アン自身も連絡をとろうとしたため、家政婦はしぶしぶ、彼女達の連絡を取り継ぐことにした。

久しぶりに聞く元気な弟子達の声。

嬉しくてアンは何度も涙ぐんだ。

弟子も師匠と話せてうれしかったが、訪問となるとそうはいかない。

「コロナ禍だから、訪問を制限する」

という理由はまことに好都合な理由だった。

弟子がやってくると、家政婦は露骨に嫌な顔をした。

弟子達は苦々しい思いでいっぱいだったが、

当の師匠が家政婦を頼っているのだから、それでいいじゃないか。

そう弟子達は思っていた。

しばらくしてアンはまた入院した。

今回も家の中で転倒してしまったのだ。

100歳を超えた老女の一人暮らしはやっぱり無理だったのだ。

数ヶ月の入院生活の後、とうとうケアホームへ正式に入居することになった。

前回とは別のケアホームだが、そこでも訪問できるのは近親者一名だけ。

だからアンに会えるのは家政婦のみだった。

弟子とアンの交流は電話のみになった。

弟子達は時間を決めて、アンへ定期的に連絡していた。

アンは娘と会話するように、日常のたわいない話を繰り返した。

本当に楽しそうだった。

しかし、だんだんアンに電話が繋がらなくなった。

「昼寝でもしてるのかな?しつこくかけ直すのも申し訳ない」

弟子たちはそう思い、そのままにしておいた。

そういうのが数回続いたある日のこと、弟子達はショッキングな連絡を家政婦から受ける。

「アンが亡くなった。」

ミステリアスな最後

弟子たちに家政婦から連絡があった。

それは淡々とした報告のような電話だった。

アンの訃報。

仰天する弟子たちはとりあえず現地に向かうと伝えると、もう遺体は火葬して埋葬も済ませたという。

亡くなったのは数週間前。

お葬式は無しで、すぐ火葬されたらしい。

遺灰は、身寄りのない人をまとめて埋葬する合葬墓に埋葬されと。

「ひどい!なんてことを!あんまりだ!」

あまりの扱いに弟子達は憤慨する。

しかし「パワーオブアトーニー」の決断は親族の決断と同義である。

外部の人間は口出しできない。

「死因はなんだったの?」

弟子の一人が問い正すと、あまりに予想外の答えが返ってきた。

「starving death 」

Starving death ?

スタービンーデス?

直訳すると餓死である。

弟子の一人が回想する。

「先生と電話で話した時、先生ね、Food! Foods!っていってたの。

さらに先生はこうも言ったの。

「今度いつお食事持ってきてくれるの?」って。

だから私、いつものわがままだと思って、

「だめだよ、出されるものはちゃんと食べなきゃ。」

って言ったのよ。けど、今思うと、お腹空いてたんだよ。先生….」

こんなことがあるんだろうか?

普通、自然死とは食欲がおちて、食べ物を食べなくなって、自然と臓器の機能がストップして死に至るのである。

しかし、このケースは自然死といえるのだろうか?

家政婦の暗躍

Starving Deathの解釈は非常にデリケートで、それを許可する書類には本人はもちろん、パワーオブアトーニー、医師、看護師、その他いろんな人の承認が必要である。

そして、その承認が全て降りたら、合法的に自然死と認められるらしい。

弟子はいう。

「先生の性格が利用されてしまった」

アンはけっこう強情なところがある。

食事は要るかと聞かれても、「お腹が空いてないからいらない。」というらしい。

アンは前言撤回というものをしない性格だ。

一度いらないと言った手前、「やっぱりほしくなった。」とあとで言えないのだ。

しかし弟子の前では素直だった。

ある日、弟子が食事を作ろうとしたら、アンは「お腹が空いてないから要らない。」と断った。

アンの性格を知っている弟子はそれを無視して、食事を作り始める。

そのうちアンもだんだんお腹が空いてきて、弟子のそばによってきて、おしゃべりを始め、ディナーテーブルにちゃっかり座り、出された料理を完食するのだ。

長年愛していた弟子だけに見せるアンのおちゃめなふるまいである。

しかし知らない人にはその一面をみせない。

ここからは推測である.

ケアホームにアンが入居したころ、家政婦は「アンはすぐに亡くなる」と思っていた。

ところが104歳になるアンは、長年のヨガ鍛錬のおかげですこぶる健康だったのだ。

しかし、自由な一人暮らしに比べて、ルールだらけの施設生活は彼女を苛立たせた。

そのうえに孤独感が重なり、彼女は一層頑固になった。

彼女が唯一自分で支配できるのは食事である。

いつも食事に文句をいって、看護師さん達を悩ませていた。

アンの食事記録を見た医療チームは、アンに食欲がない、食べ物を摂取しない、つまり高齢なアンに自然死が近づいていると判断したのだ。

医者、看護師、栄養士などの医療チームと家政婦はアンの「自然死に向かってのケアプラン」を討議した。

家政婦はアンとの長い付き合いで、彼女が一度食事を拒否しても、後でお腹が空いて食べ始めることを知っていたはずだ。

なのに家政婦はあえてそれを言わなかった。

こうして「Starving death」を奨励できる書類が認可されたのだ。

この書類が作られたときには、当然アンも同席している。

医師たちも直接アンに意見を求めたはずだ。

ことの重大さにアンはたじろいだことだろう。

そのとき家政婦はアンにこう言ったかもしれない。

「あなたはいつもお腹は空いてない。食事はいらないって言ってるじゃない。」

「いつも死にたい、死にたいって私に言ってた。そうでしょう?」

前言撤回ができないアンは「イエス」という以外なかった。

家政婦犯人説についての考察

この席にひとりでも彼女の弟子達がいたならば、この恐ろしい策略からアンを守っていたのではないか?

いま私は「恐ろしい策略」という言葉をつかった。

会ったことのないひとのことを、私がこのように判断するのはいけないことなのだろう。

けれども家政婦のやったことは、人として許せるものではない。

私がそう思う根拠はいくつかあるのだ。

根拠1 アンの訃報を弟子に知らせたのは埋葬した後だった

生前、アンがどれだけ弟子たちを愛していたか、そして弟子たちもアンをどれだけ愛していたか、家政婦は長い間、それを見てきているはずだ。

それが家政婦にとって、どれほど気に入らないものであっても。

だから普通に考えれば、アンが亡くなったら、すぐに弟子たちに連絡をするべきであろう。

そして弟子がアンの訃報を知ったら、即座にアンの元に駆けつけ、遺体を丁重に管理し、想いを込めたお葬式を執り行い、埋葬場所もきちんと確保するだろう。

弟子主導で葬儀を行うと、それなりにお金をかけてしまう事が予想できる。

家政婦は葬儀自体にお金を使いたくなかったのではないか?

アンのお金なのに、いつのまにか家政婦自身のお金だと勘違いしていたのではないのだろうか。

家政婦の行動原理がお金だと考えると、この連絡タイミングも違和感が無くなるのだ。

根拠2 遺体をすぐ火葬して、集団墓に埋葬

アンは家政婦に家族のように接してきた。

家政婦が車がなくて困っているときに、アンは迷うことなく5000ポンドを車代として渡したりもした。

それに比べ、家政婦は基本的な仕事と、アンの話し相手をするだけ。

アンのパーソナルケアー(トイレやシャワー)などは決して手伝わなかった。

そんな恩人に対して、まともな葬儀も、弟子たちに最後のお別れもさせず、すぐに遺体を燃やしたのだ。

遺体をみられたらなにかまずいことがあったのだろうか?

その遺灰も身寄りのない他の遺灰と一緒に集団墓地に埋葬したのだ。

私には埋葬というより捨てたようにしか見えない。

残った財産をなるべく早く手に入れるため、余計なことは一切しない。

非情な行動である。

アフターアン

アンが亡くなって数ヶ月後、アンの財産分与が行われた。

アンは母親から譲り受けた邸宅、現金、株などの財産があった。

パワオブアトーニーの権限は、その人が生きている間の権限であり、アンの死後は弁護士に委ねられ、彼女の遺言書に基づいて分配されたそうである。

パワーオブアトーニーは「後継者」という意味ではないのである。

彼女としてはパワーオブアトーニーになったら、アンの財産が全部自分のものになると思っていたのだろうが、大きな誤算だった。

アンの死後、彼女の財産は凍結され、弁護士以外誰も手出しできなくなった。

アンは遺言で5人の相続人を指名していた。

ひとりは家政婦、後の4人は愛する弟子達である。

邸宅は今売りに出されており、そのお金で生前のケアホーム代が支払われる。

あと株、現金などは5分割され、各自80万ポンドずつ支払われた。

アンの冥福を心からお祈りする。

今回の寄稿者さま

ペンネーム:げば

プロフィール:1964年生まれ。愛媛県出身。大阪で貿易事務をしたのちキャリアアップのためにイギリスに留学。その時に現地男性と交際→結婚。2児の母となる。しかし21年後に破局。現在、NHS病院で看護師として働いている。

げばおばちゃまの時間: https://www.geba-obachama.com

ツイッター: https://twitter.com/Geba59121309

< 了 >

※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
※健康法や医療・介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず公的機関による最新の情報をご確認ください。
※記事に使用している画像はイメージです。

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