ペンネーム:あきこ
プロフィール:ライター兼訪問看護師。看護師歴30年以上。訪問看護は13年の経験があり、がんやその他の疾患での在宅看取り支援の経験も多数。
加奈子さんは3人兄弟の末っ子。
3人とも地元を離れて県内の大きな市に住んでいました。
お母さんの頼子さんが食欲不振で地元の病院にかかったのが1年前。
頼子さんは病院嫌いで、やっと重い腰をあげての受診でした。
肝硬変の病名で紹介状をもらい、加奈子さんの住んでいる市の病院を受診。
CT検査で、卵巣がんがおなかの中に転移して進行がんの状態とわかりました。
頼子さんは、胃カメラや大腸カメラも勧められましたが、苦しい検査を受けたくないと不承知。
家族と病院で相談の結果、加奈子さんの家での療養生活を選択。
訪問診療と訪問看護がご自宅に伺って、療養をお手伝いすることになりました。
自宅で家族が緩和ケア
加奈子さんは病院に入院すると面会が自由にできなくなるので、自宅に連れて帰りたいと思っていました。
ホスピスではなく加奈子さんの家で過ごさせることを思い描いていたのです。
頼子さんの病院嫌いも、苦しい検査を受けたくない気持ちも、受け入れていました。
それでも病人の介護は初めてで不安です。
兄や姉が心配する中、加奈子さんが言い出して家に連れてきた手前もありプレッシャーを感じます。
吐き気止めの薬は、飲み薬を使っていましたが、吐き気がある中での服薬は飲みこみがつらく、座薬に変更。
座薬は効果があるものの、おしりを刺激するため便がしたくなります。
トイレに歩くため頼子さんも大変ですが、つきそう加奈子さんの負担も増加。
吐き気を軽減するために、パジャマのゴムを緩めにしたり、食事は少し冷ましてにおいをやわらげたりしました。
口をよくゆすいだり、うがい水にミントを浮かべてたりして、清涼感の工夫も。
吐き気止めの点滴をしてみましたが、効果は感じられません。
おなかの水が減ると吐き気が軽減するのではと、抜いてみましたが、楽になるのは呼吸だけで吐き気の改善には至らず。
いろいろな方法を試してみましたが、つらさは思うように取れないのです。
入院して細かく対応方法を調整してみる提案に、病院嫌いの頼子さんは吐き気を抑えながら苦い顔。
加奈子さんは「入院なの?何とかできる方法はないの?」と悲しい顔。
訪問スタッフとご家族とで相談し、少しうとうとする薬で、苦痛を和らげる手だてを医師が提案。
朦朧とする中で遺産相続に関する家族会議
お兄さんが、うとうとするような意識がおぼろげになるのは困ると言いました。
地元の家の相続について、話をしていないのが理由です。
頼子さんも気になっていることでした。自分が進行がんであることは知っていましたし、長くはないのだろうと感じています。
最後の仕事だと思い、吐き気と闘いながら家族会議。
2日後、話し合いはまとまったようです。
やつれた頼子さんの、ほっとした安どの顔が訪問スタッフに向けられました。
皮下脂肪に細いプラスチックの針を刺して固定し、吐き気止めとうとうとする薬剤が機械の作動で微量に注射され始めました。
次の日から吐き気は落ち着きました。
もし落ち着かなければ薬剤の増量か違う種類への変更も考えられていましたが、最初の薬剤で軽くうとうとしながら過ごすことができました。
1週間ほど加奈子さんの家でうとうと過ごし、ご家族が見守るなか亡くなりました。
地元で元気に過ごしていた頼子さんが、急に病気になるとは想像できませんでした。
病院嫌いの頼子さんが加奈子さんの家で療養することや、ホスピスではなく自宅での緩和治療を受けることは入院中に話し合われていました。
病院のソーシャルワーカーがその調整役をしてくれたため、「最期をむかえるときにはどこで迎えたいか」など切り出しにくい内容も話しやすかったのです。
相続問題については、話し合う機会がありませんでした。
相続問題は体調が悪くなってから取り組むのはしんどいことです。
日頃から自分の持っている財産や口座をわかりやすくしておくことは、意識しておくといいのかもしれません。
市など公的機関には、短時間ですが無料の相談窓口があるのをご存じですか。法律・登記・相続・税・人権など、自分の悩みをサポートしてくれる窓口を知っておきましょう。
相談時は、要点をまとめたメモや資料を持っていくと、限られた時間を有効に使えます。
いざというときに、どんなことを考えて対応するとよいのか、青写真が描けていると自分もご家族も少し余裕が持てますね。
< 了 >
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※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
※健康法や医療・介護制度、金融制度等を参考にされる場合は、必ず公的機関による最新の情報をご確認ください。
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