ペンネーム:Lulu
プロフィール:50代の子なしパート主婦。運転免許を返納してから徒歩、若しくは公共交通機関で移動している。買い物はネットを使うことが多い。
温厚な性格だが、たまに笑えない冗談をよく言い、お酒が好きな人で、毎晩の晩酌が楽しみだった。
そんな父が急逝し、葬式を行った時のお話です。
父の危篤の知らせ
明け方4時頃に母から電話がかかってきた。
「お父さん、危篤だから病院まで今から来てくれる?」
私は受話器を置いて、支度しようにもまだ電車が走っていない。
運転免許を返納したために車が運転出来ない。
主人はその日出勤…しかも夜勤ですぐに連絡が取れない。
私は始発の最寄り駅に乗って新幹線で向かう。
病院に着いたら兄と母がICUの前の椅子に座っていた。
私は母に聞いた。
「なんで急にICUに…?」
母は答えます。
「10日ほど前から高熱が続いてて、会話が噛み合わなくて病院へ連れていったら入院になったの。落ち着いた、と思ったら体に数ヶ所あざが出来て増えてきたから、先生に昨日の夜から念の為ICUに入っておこう、と言われて入ったの。そしたら夜中に意識がなくなってね、今、血液透析してる」
すると兄が
「面会で顔を見に行く?話は出来ないけど」
と言ってくれたので、私は応じる。
全身に管が繋がれており、常に血圧と心電図が計られていた。
布団をめくったら無数のあざがあった!
「ICUでは裸なんだよ」
兄が言います。
つまり見るな!って事か?
特に膝下のあざの数が多い。
つまりは血液が血管に行き渡っていないということだ。
看護師さんも先生も慌ただしく動いている。
一旦先生を母が呼んでも
「両足のあざが多いし、治まらない。最悪は両足切断もありえます」
と言う。
母は「はい」の一言でだけで、どういう状況にこれからなるのか、想像つかないようだった。
私は車椅子、通院、家のバリアフリー…もし切断になったらそういう事が頭によぎった。
駆けつけたら死亡!医師から検体の依頼
駆けつけたその日の午後に父は亡くなった。
私も母も呆然として、兄は涙を流す。
束の間に主治医から亡くなった決定的な理由が定かではないので、検体をお願いされた。
兄は解剖と勘違いし
「遺体はどの程度傷が出来ますか?」
と質問。
医師の説明によると、首の後ろから5cmほど切ってそこから中の組織の状態を見る、そしてまた縫合するから、見た目には問題ないとの事。
了承した上で兄は病院に残り、私と母は自宅へ向かう。
母は放心状態で、父の死亡が受け止められない様子だった。
地下鉄から私鉄に乗り換える際、母は百貨店で
「お菓子買わなきゃ…」
何のために…?と思いつつもフラフラ歩いていく母を追った。
いくつか和菓子を購入し、帰宅する。
帰宅して待ち受けたのは…
門の前に親戚一同集まっていた。
総勢20名!
なにせ父方と母方と合わせたら兄妹が10人いる。
約1名、草刈り棒を握っている。
そんなに家の庭って雑草だらけだったの?
田舎なので、お葬式は故人の家か、お寺か、ほぼ決まっている。
草刈り棒は自宅でするという想定で用意してくれたのだろうか。
家の鍵を母が開けると、親戚一同一斉に家に突入した。
葬式の段取り
検体の加減があり、父の遺体がいつ戻るか予想がつかない。
- 「遺体はいつ来るんだ⁈」
- 「お寺、どこに頼む?」
- 「場所どうする?」
次々と会話が飛び交い、母と私は圧倒された。
しかし母は親戚と葬式の段取りをしないといけないので、私がお茶を入れる。
20個も湯呑がないよ・・・
お寺に関しては先祖代々、A寺だったが、父が生前から嫌がっていた。
実はその理由がある。
父の自宅近くに永和寺の墓がある。
ある時、住職さんが来て
「墓の面積を広げる手続きをしたいから、署名をお願いします。」
と言われて、父は断った。
そうしたら住職さん、
「いずれ、おたくも入るでしょう?」
と言ったらしく、父が激怒したらしい。
お寺は別のB寺に決まった。
結局、検体が済んで父が帰ったのは日付が変わる手前だった。
遅くなったのは、院内全ての先生が午後の診察が終わって一通り揃ってから検体を始めたらしい。
結局決定的な死因は掴めず、ただリンパだけは異常腫れていたので、高熱が出たらしい。
先生も診断書にどういう病名で書こうか、悩んでいたらしい。
「循環抗凝固因子による血液凝固障害」
どうしてそういう状態になったのか不明のままだった。
親戚は本来なら亡くなったその日にお通夜をしたかったようだ。
火葬場で驚愕の出来事
次の日、多数の親族のおかげで、うまく段取りを無事組むことができ、お通夜とさらにお葬式と共に滞りなく行われた。
そして出棺。
送迎バスに乗り移動した。
そして最後のお別れに皆で花を1本ずつ棺に添えたところで、私は日本酒の空き箱を入れた。
火葬する際に金属や瓶、缶は燃えないので、せめて父の大好きだった日本酒の空き箱を共に…と思った故だった。
その時です。
叔父が動きます。
「何、しょうもないもの入れてるんだ!呑ませてやれー!」
お供えにあった日本酒の封を開けて、火葬中の待ち時間で使用する湯呑みにお酒を注いで父に呑ませていた。
父の口が開かないので、顔中濡れていた。
ほかの皆は絶句していたが、父への送り出しにはふさわしいし、叔父の哀しみが伝わってきた。
初七日での和尚さんの破天荒な行為
骨壺を持って葬式会場へ戻る。
西福寺の和尚さんが入ってきて、お経を唱え始めた。
一同疲れている様子だった。
あまり寝ていないから仕方ない。
そこで突然携帯の呼び出し音が鳴り響く。
皆キョロキョロと周りを見渡し、誰の携帯なのか?こういう時くらい電源を切っておけばいいのに…と思ったのだろう。
ふと前を見たら、和尚さんが木魚を叩きながら携帯で通話している。
「アホか!今法要中だ!また後で連絡するわ」
とガチャ切りして、何もなかったかのようにお経をまた唱えた。
親戚一同、笑いを堪える人もいれば、気が抜けたような人もいた。
初七日が終わり、和尚さんは帰り際に振り返り
「私、自治会の役員をしておりましてな、予算が降りないうちから日程を組み始めようと相談がありまして、怒ったんですわ。どうも、失礼しました〜」
と一言告げて立ち去った。
親族は笑う人もいれば、唖然とした人もいた。
涙が吹っ飛ぶお葬式だった。
今考えると、まさか日本酒を呑ませたのも和尚さんの笑えない行動も父の置き土産か…⁈
< 了 >
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※本記事は個人の体験談をもとに作成されております。
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